■どれを選べばよりかわからないという来店客へ
業界ややり方は違っても、並外れた営業力がある方がいます。仕事を通じて、「トップ営業」と呼ばれる方とお会いする機会も多々あり、その手法などを教えていただいたこともあります。
そんな状況のなか、購入者である私が「お見事!」と思った営業の方がいたという、ちょっと生活感が出てしまう週末の出来事です。
東京も厳しい暑さが続くこの時期、我が家の冷蔵庫が、遂に壊れました。冷蔵室が冷えない、常温のままというごまかしようがない壊れ方です。
私自身、白物家電についてはまったくこだわりもなく、不便なく使えるものを、壊れるまで使うという感覚。この冷蔵庫も製造年を確認すると・・・大きな声では言えませんが、15年以上前のものでした。
もう迷う余裕もなく、翌日、量販店に行き、冷蔵庫売り場へ向かいました。すると、冷蔵庫売り場は大盛況。たくさん並んでいますが、どれを選べばいいのかまったくわからない状況。敢えて要望を言うならば、安くて高品質のもの、くらいです。
大手量販店なので販売員の男性は何人もいますが、積極的に話しかけてくることもなく、聞けば答えてはくれますが、そこから広がらない、という感じです。
■話しかけるタイミングと最初のひと言
売り場に着いて約20分。「もういい加減に決めようよ」、となったとき、声をかけてきたのが、この方でした。
いきなりかけてきた言葉は、「何を重要視されますか?」。
年の頃は40代前半の男性。落着きを感じさせるメリハリのある声と話し方、無理のないやわらかい表情、他の人と比べると年相応の爽やかさを感じさせます。
私の答えは、「コストパフォーマンスが良いことくらいです」。
それに対して、それぞれの商品のコストパフォーマンスを比較する数字の見方を、まず説明。
そして、「違いがわからないと思いますので」ということで、冷蔵庫のメイン5社の商品の違いと特長を、実際に商品を見せながら短くまとめて教えてくれます。とにかく、説明が短い!
まずは、S社とP社の違い、ビールをたくさん冷やしたいのか、お刺身をおいしく食べたいのかなどなど重要視することから、取捨選択して次はT社の説明。それでダメだというならばH社のバージョン、とひと通り進んでいきます。
そして、「最後になりますが、わたくし、M社の人間ですので、M社の商品を~」となります。
最初に声をかけてきたときから、M社の社員証を胸につけていたのでそれは一目瞭然で、こちらもその前提で説明を聞いていました。過去に同店でプリンターを購入するとき、量販店では最後には他社商品を購入されることもあるから、「販売員も大変だな」と思った記憶があります。
逆に言えば、顧客のニーズを聞いて、それに合った他社製品を進める販売員に好感をもちましたが、本来ならば、営業的にそれでは・・・どうなのでしょうか。。。
冷蔵庫の他社商品の良いところをさんざん説明して、そして最後に本命の自社商品の説明。心理学的に「親近効果」という、最後に与えられる情報に強く影響される法則に沿った手法なのは明らかですが、「明確な説明→比較・選択」を数回して、最後には自社商品へつなげる。そこまでの説明と対応の良さで信用度を高めて、「自社商品です」と明言してクロージング。
その流れがまったく違和感がなく、その場にいた全員が納得して購入決定!となるのは、「営業のロールプレイに乗せられました」というくらい見事でした。
よくよく思い出してみると、この方は途中で近くには立っていました。ずっと接客をしている様子でもなかったので、顧客の売り場内の行動や様子、会話を聞いていて、「ここだ」というタイミングで話しかけてきたに違いありません。この時期の冷蔵庫売り場に来る人は、確実に買うために来ている人が大半ですが、この方の狙いは、「確実に買う客に、確実に自社製品を売ること」だったはずです。
まさに、ターゲットにされて、見事に買うことになりましたが、なぜか「まんまと買わされた」と言っているものの、「買ってよかった~」という満足感が全員にあったのも事実。
改めて感じたのは、「論理的なわかりやすい説明」「売りたい商品までのスクリプト」、それにプラスした購買行動や心理学的な裏付けの重要性。さらにそれに加えて、やはり猛暑でも爽やかさを感じる外見は重要ですね。
この記事の執筆者
山川碧子(やまかわ みどり)
株式会社プライムイメージ代表/AICI国際イメージコンサルタント。2006年からビジネスパーソンの印象管理・印象マネジメント®を中心にサポートしています。著書『4分5秒で話は決まる~ビジネス成功のための印象戦略』。お仕事のご依頼はこちらからお願いします。