会見2時間をすべて一人で仕切るスキル
2020年2月31日に、元スマップの中居正広さんの事務所退所会見がありました。
週末にかけて、連日、報道されていたので、ジャニーズファンでなくてもテレビなどで目にした方も多いはずです。この会見、過去のこうした会見には例をみない大変高い評価を得ていました。実際に私も見てみましたが、確かに「上手い!」と感じさせる会見でした。
何がそこまで評価されたのかというと、まず、約2時間におよぶ会見を、司会進行役もおらず、中居さん一人ですべてを仕切ったこと。これが一番大きかったはずです。
その内容についても、会見に来た人、見た人を満足させる内容でありながら、これまでの型にはまった会見形式を一新したもの。名前も独立会見、退所会見でもなく、自ら「退所ロングインタビュー」と名付け、何でも聞いてくださいというオープンなスタイルを前面に出したことが、これまでの所属事務所のイメージと対照的であり、よりインパクトを与えていたようです。
「よかった」「うまかった」とほぼ全員が褒め称えていますが、実際にどこがどうよかったのか――? 約2時間の会見をまるまる見た方はほぼいないと思いますので、私の考える高評価につながったポイントをお伝えしてみます。
いろいろな見方がありますが、私は以下3点が大きかったのではないかと思います。
1.会見が始まる前からの仕切り
2.NGの言い換え方
3.回答内容に入れた具体例
これらについて、少しご説明してみます。
業界で生き残るための営業プレゼンとして
1.会見が始まる前からの仕切り
当日は会見スタートの15分前に、記者席から中居さんが現れ、出迎え、そして仕切り始めました。これまでの会見形式では、記者席には並んだ記者とカメラを前に多数のフラッシュを浴びながら、当人が緊張した表情で登場してくるのが定番。
ところが、この日はこの緊張のスタートシーンも、自らが「フラッシュの点滅に注意」という段ボールにマジック書きで作ったプラカードを出しながら、笑いをとりつつ、リハのようなスタイルにしてしまっていました。ここで中居さんの演出に乗せられているわけです。
セミナーでも講演でも、最初の15分程度は、緊張をほぐすアイスブレイクの時間として、熟考するものです。そこを記者たちとのコミュニケーション時間としてとらえ、自らが登場してアイスブレイクしてしまったのですから、始まりから良い雰囲気ができていたということになります。スタートの準備は完璧でした。
2.NGの言い換え方
こうした会見では、当事者は「NG」「オフレコ」という言葉はできるだけ使わないほうが好ましいものです。ですが、中居さんの場合、会見の始まり直後に、「NGはNGと言います!」とはっきり言い切っていました。
ところが実際に会見が始まると、私が聞いたかぎりでは「NG」という言葉自体は使ってはいなかったと思われます。ですが、中居さん自身でのNGは明確にしていて、「それは言えない」「あなたには絶対言わない」などと冗談を交えながらも、言わない(=NG)を明確に線引きしていました。
この言い方では、相手に嫌悪感も与えず、それでいながらNGとはっきり意思表示をしている。この言葉を換えた中居さんならではのNG出しのうまさが際立っていました。「言わない!」と笑いながら言われて、納得してしまった記者も多いのではないかと感じます。
3.回答内容に入れた具体例
質問に対する答え方も、ユーモアを十分に入れながら質問者を満足させる内容となっていました。この答え方とそのスタンスも「ここまで答えてくれるんだ」と記者に思わせる、とても丁寧なやりとりとなっていました。
質問の答え方も、聞いている人が親近感を感じるような同じ事務所のタレント名を出し、それが見ている人の笑いを誘うわかりやすいものとなっていました。
例えば、「誰かに報告をしましたか?」といった質問には、先輩の少年隊・東山さんとの電話のやりとりを披露していました。そのときは自らが会見テーブルの前へ出て、電話中のやりとりを再現。東山さんのモノマネをしながら答えている様子は、見ている側としてはニュアンスも十分に伝わってきて、思わず笑いも出てしまうユーモアあふれるものでした。
また今後の可能性について聞かれたときには、同事務所の後輩グループ名を出して、「キスマエFt2 に入るかもしれない」「V6に入って、V7になるかもしれない」といったコメントも。これは少しでもわかる人やファンであるならば、「ありえないでしょう」と思う笑い話です。とはいえ、ファンにとっては、関係が切れるわけでなく、そんな可能性も100%ないわけでないのね、と感じさせる、中居さんの思いやりを感じさせる答え方。こんなファンにも事務所にも配慮した答え方にも好感を抱きます。
これまでの司会、MCとしての経験をすべて活かし尽くしたともいえる、感心させられることしきりの会見でした。
この退所についても、「自分で決めました」「一人で決断しました」と、自分が主導権を握って決めて、発表したということをはっきりと言葉にしてもいました。一時代を築いたグループが解散し、そのリーダーであった自分のタレント性・能力を今一度、大きくアピールして、今後も業界で活動していくための営業的プレゼンに成功したといえるでしょう。